リゾートバイト 8
坊さんの後を付いてしばらく歩いた。
近づくにつれて、なにやら呻き声と
何人かの経を唱える声が聞こえてきた。
何人かの経を唱える声が聞こえてきた。
そしてその声と一緒に、バタンッバタンという音が聞こえた。
かなりでかかった。
かなりでかかった。
離れの扉の前に立つと、その音はもうすぐそこで鳴っていて、
中で何が起きているのかと俺は内心びくびくしていた。
中で何が起きているのかと俺は内心びくびくしていた。
そして坊さんが離れの扉を開けると、そこには女将さん一人と、
それを取り囲む坊さん達が居た。
それを取り囲む坊さん達が居た。
俺達は全員、言葉を発することができなかった。
女将さんはそこに居たというか・・・なんか跳ねてた。
エビみたいに。
うまく説明できないんだが。
エビみたいに。
うまく説明できないんだが。
寝た状態で、畳の上で、はんぺんみたいに体をしならせて、
ビタンビタンと跳ねていたんだ。
ビタンビタンと跳ねていたんだ。
人間のあんな動きを俺は初めてみた。
そして時折、苦しそうにうめき声を上げるんだ。
俺は怖くて女将さんの顔が見れなかった。
正直、前の晩とは違う、でもそれと同等の恐怖を感じた。
呆然とする俺達に坊さんは言った。
坊「この状態が、今朝から収まらないのです」
するとAが耐え切れなくなり、「俺、ここにいるのキツイです」
と言ったので、一旦外に出ることになった。
音を聞くことさえ辛かった。
と言ったので、一旦外に出ることになった。
音を聞くことさえ辛かった。
つい昨日の朝に見た女将さんの姿とは、
まるで別人の様になっていた。
まるで別人の様になっていた。
そこから少し離れたところで、俺達は坊さんに尋ねた。
憑き物の祓いは成功したのではないかと。
憑き物の祓いは成功したのではないかと。
坊「確かに、あなた達を親と思い憑いてきたものは、
祓うことができたのだと思います。現にあなた達がいて、
ここに臍の緒がある。しかし・・・」すると急にBが言ったんだ。
祓うことができたのだと思います。現にあなた達がいて、
ここに臍の緒がある。しかし・・・」すると急にBが言ったんだ。
B「そうか・・・俺が見たのは、1つじゃなかったんだ」
初めは何のことを言ってるのかわからなかったんだが、
そのうちに俺もピンときた。Bはあの時、2階の階段で
複数の影を見たと言っていなかったか?
そのうちに俺もピンときた。Bはあの時、2階の階段で
複数の影を見たと言っていなかったか?
坊「1つではないのですか?」坊さんは驚いたように聞き返し、
Bがそうだと答えるのを見ると、また少し黙った。
そして暫く考え込んでいたかと思うと、
急に何かを思い出したような顔をして、俺達に言ったんだ。
急に何かを思い出したような顔をして、俺達に言ったんだ。
坊「あなた達は鳥居の家に行ってください。
そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます
そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます
ポカンとする俺達を置いて、坊さんはそのまま女将さんのいる
離れの方に走って行った。俺達は急に置いてけぼりを食らい、
暫く無言で突っ立っていた。
離れの方に走って行った。俺達は急に置いてけぼりを食らい、
暫く無言で突っ立っていた。
すると離れの方から、
複数の坊さんが大きな布に包まった物体を
運び出しているのが見えた。
複数の坊さんが大きな布に包まった物体を
運び出しているのが見えた。
その布の中身がうねうねと動いて、
時折痙攣しているように見えた。
時折痙攣しているように見えた。
あの中にいるのは女将さんだと全員が思った。
そのままおんどうの方に運ばれていく様を、
俺達は呆然と見ていたんだ。
俺達は呆然と見ていたんだ。
ふとお互い顔を見合わせると、途端に怖くなり、
俺たちは早足で家に向かった。
俺たちは早足で家に向かった。
そこからは、説明することが何も無いほど普通だった。
家に行って暫くすると、別の坊さんがやって来て
「ここで一晩過ごすように」と言われた。
「ここで一晩過ごすように」と言われた。
そしてその坊さんは俺たちの部屋に残り、
微妙な雰囲気の中4人で朝を迎えたというわけ。
微妙な雰囲気の中4人で朝を迎えたというわけ。
次の朝、早めに目が覚めた俺達が
のん気にめざにゅ~を見ていると、坊さんがやって来た。
のん気にめざにゅ~を見ていると、坊さんがやって来た。
俺達は坊さんの前に並んで話を聞いた。
坊さんは俺達の憑き祓いは完全に終わったと言った。
昨日言っていた通り、俺達に憑いてきたモノは一匹で、
それは退化を遂げて消滅したのを確認したんだと。
それは退化を遂げて消滅したのを確認したんだと。
俺達はそれを聞いて安堵した。
しかし坊さんはこう続けた。
女将さんを救うことができなかったと。
泣きそうなのか怒っているのか、
なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。
なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。
死んだのかと聞くと、そうではないと言うんだ。
俺はその言葉から、女将さんが跳ね回っている姿を思い出した。
ずっとあの状態なのか・・?
恐る恐るそれを聞くと、
坊さんは苦い顔をしただけで、肯定も否定もしなかった。
坊さんは苦い顔をしただけで、肯定も否定もしなかった。
女将さんの今の状態は、憑きものを祓うとか
そういう次元の話ではなく、
何かもっと別のものに起因してるんだって。
そういう次元の話ではなく、
何かもっと別のものに起因してるんだって。
詳しくは話してくれなかったんだが、女将さんが行った儀式は、
この地に伝わる『子を呼び戻す儀』と似て非なるものらしい。
この地に伝わる『子を呼び戻す儀』と似て非なるものらしい。
どこかでこの儀の存在と方法を知った女将さんは、
息子を失った悲しみからこれを実行しようと試みる。
息子を失った悲しみからこれを実行しようと試みる。
だが肝心の臍の緒は自分の手元にあったわけだ。
こっからは坊さんの憶測なんだが、
女将さんはこれを試行錯誤しながら、
完成系に繋げたんじゃないかということだった。
女将さんはこれを試行錯誤しながら、
完成系に繋げたんじゃないかということだった。
自分の信念の元に。
そしてそこから得た結果は、本来のものとは別のものだった。
堂には複数のモノがおり、そこに息子さんがいたかは
分からないと。坊さんが言ってた。
分からないと。坊さんが言ってた。
この儀の結末は、非常に残酷なものでしかないんだと。
それを重々承知の上で、母親達は時にその禁断の領域に
足を踏み入れてしまう。
足を踏み入れてしまう。
子を失う悲しみがどれ程のものなのか、
我々には推し量ることしかできないが、
我々には推し量ることしかできないが、
心に穴の開いた母親がそこを拠り所としてしまうのは、
いつの時代にもあり得ることなのではないかと。
いつの時代にもあり得ることなのではないかと。
Bは女将さんのこれからを執拗に聞いていたが、
坊さんは何も分からないの一点張りで、
坊さんは何も分からないの一点張りで、
俺たちは完全に煙に巻かれた状態だった。
俺達が坊さんと話終えると、
部屋に旦那さんが入ってきた。俺は正直ぎょっとした。
部屋に旦那さんが入ってきた。俺は正直ぎょっとした。
顔が土色になって、明らかにやつれ切った顔をしてたんだ。
そして、俺達の前に来ると泣きながら謝って来た。
泣きすぎて何を言ってるのかは全部聞き取れなかったんだけど、
俺達は旦那さんのその姿を見て誰も何も言えなかった。
俺達は旦那さんのその姿を見て誰も何も言えなかった。
俺達に申し訳ないことをしたと泣いているのか、
それとも女将さんの招いた結果を思って泣いているのか、
それとも女将さんの招いた結果を思って泣いているのか、
どっちだったんだろうな。今となってはわかんねーな。
その後、俺達は何度も坊さんに確認した。
これ以降俺達の身には何も起きないのか?と。
すると坊さんは、困ったような顔をしながら「大丈夫」だと言った。
その後、坊さんの所にタクシーを呼んでもらって
俺達は帰ることになった。
俺達は帰ることになった。
一応、昨日の朝、俺を家まで運んでくれたおっさんが、
駅まで同乗してくれることになったんだが。
このおっさんがやたら喋る人で、
それまでの出来事で気が沈んでる俺達の空気を
一切読まずに、一人で喋くりまくるんだ。
そんでこのおっさんは、
「それにしても、子が親を食うなんて、
蜘蛛みたいな話だよなぁ」と言ったんだ。
駅まで同乗してくれることになったんだが。
このおっさんがやたら喋る人で、
それまでの出来事で気が沈んでる俺達の空気を
一切読まずに、一人で喋くりまくるんだ。
そんでこのおっさんは、
「それにしても、子が親を食うなんて、
蜘蛛みたいな話だよなぁ」と言ったんだ。
俺達は胸糞悪くなって黙ってたんだけど、
おっさんは一人で続けた。
おっさんは一人で続けた。
「お前達、ここで聞いた儀法は試すんじゃねーぞ。
自己責任だぞ」そう言って笑うんだ。
自己責任だぞ」そう言って笑うんだ。
俺達の気持ちを和らげようとして言ってるのか、
本気でアホなのかわかんなかったけど、
一つ確かなことがあった。
本気でアホなのかわかんなかったけど、
一つ確かなことがあった。
俺達は、坊さんに真実を隠されて教えられたんだ。
儀の方法は、その結果と一緒にこの地に伝わってるんだ。
このおっさんが知ってて坊さんが知らないはずないだろ?
そう思うと、これだけの体験をさせといて、
結局は大事なところを隠して話されたことに
すげーショックを受けた。坊さんを信用していた分、
なんか怒りにも似たものが湧き上がってきたんだ。
結局は大事なところを隠して話されたことに
すげーショックを受けた。坊さんを信用していた分、
なんか怒りにも似たものが湧き上がってきたんだ。
タクシーが駅に着くと、おっさんが金を払うと言ったが
俺達は断った。
俺達は断った。
早くこの場所から逃げ出したい、その一心だった。
坊さんが「大丈夫」と言った一言も、全部嘘に思えてきた。
それでも俺達には、あの寺に戻る勇気はなくて、
帰りの電車をただただ無言で待つことしかできなかったんだ。
帰りの電車をただただ無言で待つことしかできなかったんだ。
その後、帰って来てからはなんともない。
まあ、なんともないからここに書き込めてるわけだけど。
「もう2度とあの場所へは行かない」
3人で話してると必ず1回はその言葉が出てくるくらい、
俺達にとってトラウマになった出来事だったんだ。
俺達にとってトラウマになった出来事だったんだ。
あと、Bはあれから蜘蛛を見るのがどうもダメらしい。
成長過程のアイツの姿を見てるからね。
成長過程のアイツの姿を見てるからね。
俺はと言うと、今は普通に社会人やってます。
若干暗闇が苦手になったくらい。
若干暗闇が苦手になったくらい。
人間のど元過ぎれば熱さ忘れるって、
あながち間違いじゃないかもしれないな。
あながち間違いじゃないかもしれないな。
本当の本当に後日談なんだが、
その話を残りの友達2人に話したんだ。
その話を残りの友達2人に話したんだ。
2人とも俺達3人の様子を見て、一応信じてはくれたんだけど。
でもそいつらその後に、興味半分で
旅館に電話を掛けてみたんだって。(最低だろ)
旅館に電話を掛けてみたんだって。(最低だろ)
そしたら、電話に出たのは普通のおばさんだったらしい。
そいつら俺達に言うんだよ。女将さんか確認しろって。
そんで、後ろでカラスが異様に鳴いてるって言うんだ。
そんで、後ろでカラスが異様に鳴いてるって言うんだ。
絶対無理だと思った。
女将さんが無事でも無事じゃなくても、
俺にはその後を知る勇気なんか出なかった。
女将さんが無事でも無事じゃなくても、
俺にはその後を知る勇気なんか出なかった。
タラタラ書いて正直すまなかった。
真相といっても的を得ない内容だったかもしれないが、
ご勘弁願います。これがありのままっす。オチなしですが。
ご勘弁願います。これがありのままっす。オチなしですが。
長々読んでくれてどうもありがとう。
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